親が亡くなって、遺産の中に別荘があった。
自分は一度も行ったことがなく、これから使う予定もない。
預貯金はありがたいけれど、別荘だけはいらない。
この「別荘だけいらない」が、実は選べない相談です。
相続放棄は財産をひとつずつ選べる制度ではないからです。
だから判断は、別荘の負担と、他の財産の額を並べて決めることになります。
この記事では、放棄した場合と、相続して手放した場合の金額を計算します。
そのうえで、どこが分かれ目になるのかを数字で出します。
相談者父の遺産に別荘があるのですが、正直いりません。別荘だけ放棄することはできますか?



それはできないんです。放棄すると、預貯金も自宅も受け取れなくなります。



そうなんですか…では、どう決めればいいのでしょう?



他の財産がいくらあるかで決まります。金額を並べてみましょうか。
相続した別荘がいらないとき、選べる3つの方法
取れる方法は3つです。それぞれ、かかるお金と手間が違います。
家庭裁判所に申述して放棄する


家庭裁判所に申述して、初めから相続人でなかったことにする方法です。
期限は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月です。
費用は申述する相続人1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手です。
金額としてはいちばん安く済みますが、預貯金も自宅も受け取れなくなります。
別荘を相続して買取に出す
いったん相続したうえで、買取業者に引き取ってもらう方法です。
先に相続登記をして名義を自分に移し、そのうえで売買契約を結びます。
他の財産は普通に受け取れます。
そして別荘に値が付けば、その分も手元に入ります。
相続して国庫帰属制度を使う
相続土地国庫帰属制度は、相続で取得した土地を国に引き取ってもらう制度です。2023年4月に始まりました。
引き取ってもらえない土地の要件が決まっていて、別荘地では次の項目で引っかかります。
- 建物がある土地は申請できません。先に解体して更地にする必要がある
- 境界が明らかでない土地、所有権の範囲に争いがある土地も申請できない
- 担保権や使用収益権が設定されている土地は対象外。抵当権が残っていれば先に抹消する
- 通路など、他人による使用が予定されている土地も対象外。私道の持分が含まれていると引っかかる
- 土壌汚染や、管理に過分の費用や労力がかかる土地も引き取ってもらえない
費用は、審査手数料が土地1筆あたり14,000円です。承認されたら負担金を納めます。宅地などは原則20万円、森林などは面積に応じて算定します。
持ち出しはいちばん大きくなりますが、毎年の支出を完全に止められます。
使っていなくても管理費は止まりません
別荘地の管理費も、リゾートマンションの管理費・修繕積立金も、所有している限り発生します。使っていないから払わない、という理屈は通りません。管理組合や管理会社は所有者に対して請求する権利を持っていて、滞納が続けば法的手続きに進みます。
そして区分所有法により、滞納された管理費は次の買主が引き継ぎます。だから滞納があると買い手はさらに見つかりにくくなり、滞納が増える。この循環に入ると、時間が経つほど手放しにくくなります。
別荘の相続放棄と売却、どちらが損をしないのか?
金額を置いて確かめます。次の条件で見てください。
- 別荘の固定資産税評価額は土地300万円・建物100万円の合計400万円
- 買取業者に聞いたら100万円で引き取れると言われた
- 解体費は150万円
- 親がいくらで買ったのかを示す資料は残っていない
この条件で、3つの方法の結果を並べます。
| 相続放棄 | 相続して買取(100万円) | 相続して解体し国庫帰属 | |
|---|---|---|---|
| 別荘から受け取る金額 | 0円 | 1,000,000円 | 0円 |
| 相続登記の登録免許税 | 0円 | △16,000円 | △16,000円 |
| 印紙税 | 0円 | △1,000円 | 0円 |
| 譲渡所得税(取得費5%) | 0円 | △192,700円 | 0円 |
| 解体費 | 0円 | 0円 | △1,500,000円 |
| 建物滅失登記 | 0円 | 0円 | △48,098円 |
| 審査手数料・負担金 | 0円 | 0円 | △214,000円 |
| 家庭裁判所の費用 | △800円+郵便切手 | 0円 | 0円 |
| 別荘についての差引き | △800円ほど | +790,300円 | △1,778,098円 |
| 他の財産 | 受け取れない | 受け取れる | 受け取れる |


買取に値が付くなら、放棄より79万円多く残ります。
しかも他の財産も受け取れるので、二重に有利です。
逆に、値が付かず解体して国庫帰属に進む場合は177万円の持ち出しになります。
つまり分かれ目は、別荘に値が付くかどうかです。
そしてこれは、聞いてみないと分かりません。
他にどれだけ財産があれば、放棄すべきか?
もう1つの分かれ目が、他の財産の額です。
最悪の場合、別荘の持ち出しは177万円でした。
だから他の財産がこれを下回るなら、放棄したほうが手元に残ります。
| 他の相続財産 | 放棄した場合 | 相続して買取100万円 | 相続して解体・国庫帰属 |
|---|---|---|---|
| 0円 | 0円 | +790,300円 | △1,778,098円 |
| 100万円 | 0円 | +1,790,300円 | △778,098円 |
| 200万円 | 0円 | +2,790,300円 | +221,902円 |
| 500万円 | 0円 | +5,790,300円 | +3,221,902円 |
表を見ると、他の財産が200万円あれば、最悪の場合(解体して国庫帰属)でも放棄より有利になります。
つまり預貯金や自宅がある相続では、放棄が正解になる場面は多くありません。
放棄を考えるのは、他にめぼしい財産が無く、しかも別荘に値が付かず、管理費の滞納も積み上がっている場合です。
そして3か月の期限内に買取の査定を1本取れば、この判断ができます。
査定は無料ですし、日数もかかりません。



預貯金が500万円ほどあります



それなら放棄する理由はほぼ無いですね。相続して、別荘は別で手放すほうが残ります。



でも別荘が売れなかったら…



その場合でも、500万円から別荘の処分費を引いた分は手元に残ります。放棄すると500万円ごと失います。
一括査定と買取は、別のものです
一括査定は、複数の不動産会社に「いくらで売れそうか」を出してもらう仕組みです。売るのは買い手が見つかってからなので、買い手がつかなければいつまでも売れません。別荘や別荘地は、この「買い手がつかない」で止まります。
買取は、業者が直接買い取ります。買い手を探す必要がないので、その場で終わります。価格は仲介で売れた場合より下がりますが、売れない物件にとっては比較対象が「売れない」なので、実質的な損は出ません。
| 一括査定 | 買取 | |
|---|---|---|
| 相手 | 個人の買い手 | 買取業者 |
| 期間 | 数か月〜売れるまで | 数日〜数週間 |
| 価格 | 相場に近い | 相場より下がる |
| 売れない物件 | 止まる | 引き取れる場合がある |
別荘がいらないからと相続放棄すると、他の財産も失います
ここは何度でも書いておきます。
相続放棄は、財産をひとつずつ選べる制度ではありません。
放棄すると初めから相続人でなかったことになるので、次のものも受け取れなくなります。
- 預貯金
- 自宅の土地と建物
- 株式や投資信託
- 自動車
- 貸していたお金
なお、生命保険金は受取人が指定されていれば受取人固有の財産とされ、相続放棄をしても受け取れる場合があります。契約の内容によるので、保険会社に確認してください。
- 預貯金
- 自宅の土地と建物
- 株式や投資信託
- 自動車
- 貸していたお金
なお、生命保険金は受取人が指定されていれば受取人固有の財産とされ、相続放棄をしても受け取れる場合があります。
契約の内容によるので、保険会社に確認してください。
そして放棄には、もう1つ知っておくべきことがあります。
2023年4月1日に施行された民法の改正で、放棄した時にその財産を現に占有しているときは、相続人や相続財産清算人に引き渡すまでのあいだ、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないとされています。
別荘の鍵を預かって荷物の整理に出入りしていた場合、現に占有していたと見られる可能性があります。
放棄したから何も関係ない、とはならない場面があるということです。
そして相続人が全員放棄して誰もいなくなった場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることになります。
この申立てでは予納金を求められることがあり、金額は事案によって違います。
別荘を相続してしまった後にできること
3か月を過ぎて、すでに相続してしまった場合はどうするか?
放棄はできませんが、手放す方法は残っています。
- 相続登記を済ませて名義を自分に移す
- 管理会社に電話して、管理費の残高と滞納の有無を確かめる
- 法務局で登記簿を取り、地積測量図と抵当権を確認する(600円)
- 複数の買取業者に査定を依頼する
- 値が付けば売却、付かなければ隣地の所有者や国庫帰属を検討する
1番目は、いまは義務になっています。
相続登記の申請は2024年4月1日から義務になりました。
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請することとされています。
正当な理由なく怠った場合は、10万円以下の過料の対象です。
施行前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。
放置しても、登記の義務からは逃れられません。
そして名義が亡くなった親のままだと、売ることもできません。
手放すと決めたなら、どのみち登記は通ることになります。
登録免許税は評価額の1,000分の4なので、評価額400万円なら16,000円です。
司法書士に頼めばその報酬が別にかかります。
ここから先は、実際に手放すための窓口です。査定や相談は無料で、申し込んだからといって売らなければならない義務はありません。金額を見てから決めて問題ありません。
ただし、物件の場所・面積・管理費の滞納の有無は、最初に正確に伝えてください。後から出てくると話が止まります。
まとめ 相続した別荘がいらないなら、3か月以内に方向を決めます
相続放棄は、別荘だけを外せる制度ではありません。
放棄すれば預貯金も自宅も受け取れなくなるので、判断は相続財産の全体で行います。
計算してみると、別荘に100万円の値が付く場合は、相続して手放したほうが放棄より79万円多く残りました。
値が付かず解体して国庫帰属に進む場合でも、他の財産が200万円あれば放棄より有利になります。
つまり預貯金や自宅がある相続では、放棄が正解になる場面は多くありません。
そして3か月を過ぎたら、放棄という選択肢そのものが消えます。
だから期限内にやることは1つだけです。買取の査定を取って、値が付くかどうかを確かめてください。
値が付くと分かれば、放棄しないほうが残る。それだけの話になります。
放棄の手続きと期限の数え方は リゾートマンションの相続放棄は間に合うのか?3か月の期限の数え方、手放し方ごとの手取りは 別荘を処分する方法は4つ。選び方で手取りが100万円変わります に書いています。






コメント